桜、月夜、愛おもい。




『切ろうって話は、前から出てたらしいよ?』



さっきの咲菜の言葉が、頭の中で響く。



『随分と前からあったらしくてさ。あれだけ大きな木が倒れたりでもしたら大変だって、近所のおばさん達が言ってたみたい』



『凛桜で間違いないの?』



『そのおばさん、毎日中学生ぐらいの女の子が、その桜の下にいるのを見てたんだって。…だからたぶん…凛桜くんだよ』



咲菜の沈んだ表情が、小さく歪む。


それを思い出すと、鼻の奥がツンとした。



「…っ」


涙が出ないように、歯を食いしばって堪える。

鼻で空気を吸うと、ず…と音がした。