桜、月夜、愛おもい。



何度もしつこく聞いて来る咲菜にイライラしていると、咲菜は「そうだ!」と言って手を合わせた。



「奈津、目ぇ瞑って?」


咲菜はニコニコと言った。



「?…何で?」

「いいから!」



有無を言わせぬその言い方に、私は仕方なく従う。


すると咲菜が言った。



「男の子一人。思い浮かべて」


私は言われたとおり、思い浮かべた。



浮かんできたのは、黒髪の美しい桜の精。



「その人が奈津の好きな人だよ」

「っ!」


咲菜の言葉に、私は胸が痛むのを感じた。



「そんなやり方で分かるわけ――」

「分かるわよ。特に奈津は」


反論しようとしたけど、キッパリとした咲菜の口調に黙り込む。