桜、月夜、愛おもい。



「あなたの家族は?」



私は思ったまま答えた。


「お父さんの綾瀬宏明…と、お母さん…です」



医者が続ける。



「お母さんの名前は?」


私は眉間に皺を寄せる。



「…お、母さん…?」


頭の中には二つの顔。



私と似た顔立ちの女の人

私と全く似ていない、悲しそうな目の女の人



そして言葉



『 ゴ メ ン ネ

ア イ シ テ ル 』



「っ…!」


激しい頭痛が私を襲った。

頭の奥に鈍い痛みが広がる。



看護士が険しい顔をして、部屋を出て行った。