桜、月夜、愛おもい。



なんとなく恥ずかしくなって、繋がれた手を緩めてみると、逆にギュッと握られた。

びっくりして顔を上げれば、そこには不機嫌そうな凛桜の顔。


「ダメだよ奈津。離さないで」


その不貞腐れたような顔と言葉と口調が可愛くて、胸がキュンと鳴る。

小さな声で「うん」と言えば、凛桜は嬉しそうににっこりと微笑んだ。


「僕はこれがいいな」


凛桜が指したのはイチゴのチョコケーキ。

でも、店員さんは何も反応しない。

不思議に思って見ると、こちらを見つめて決めるのを待っている様子。


気付かなかったのかな?


内心首を傾げながらも、私は「これください」と言い、凛桜の選んだケーキを指した。

店員さんはさっきと同じように確認して、ケーキをトレーに乗せた。


「じゃあ、私はこれで」


私はイチゴタルトを選んだ。


「こちらでお召し上がりになりますか?」

「あ、いいえ」

「かしこまりました」


店員さんは微笑み頭を下げると、手際良くケーキを箱に入れた。


「お待たせしました」


もう一度微笑み、ケーキの入った箱を差し出す。

最後に、「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と、完璧な笑顔と営業文句で、店員さんに見送られた。