桜、月夜、愛おもい。



「いや、それはいいんだけど……。その子、誰?」


凜桜は私の答えを気にする様子はなく、首を傾げながら私の後ろを示した。


示された先を辿ると、そこにいたのはキョトンとした顔の美樹ちゃん。

その大きな瞳はまっすぐ凜桜を見つめていて、唇は薄く開いて微かに震えているように見える。


「あっ、この子は美樹ちゃん。友達の彼氏の妹なの。お守り頼まれちゃって…。ごめんね、嫌だった?」


そう苦笑気味に言えば、凜桜は首を横に振る。

真っ黒な髪の毛が、頭の動きに合わせてサラサラと音を立てそうなくらい綺麗に揺れた。


「全然いいよ。むしろ好都合」

「…好都合?」


呟かれた言葉に聞き返せば「ううん、何でもない」と、どこか曖昧に返された。