夕暮れ。

中学校から帰ってくる。

学校は、友達と話すのが楽しくて、反対に授業はつまらなくて。

――それでも、家よりは何倍もいたい場所だった。





「ただいま帰りました」

普通の人は『ただいま』だけしか言わないとわたしは聞いた。

だけど、わたしは変えない。

それが、わたしとその人との礼儀。



「――カナコちゃん、おかえり」

その人は陰から姿を現した。

背が170cmほど、ひょろっとしていて笑顔が優しい青年。

わたしはその人を、そう形容する。

そして、こうとも形容する。

――顔に笑顔が張り付いている、と。

それくらい、いつも笑顔が絶やさない人。

わたしに媚びるように。

わたしはその笑顔が好きでも嫌いでもなかった。



挨拶もした。

だから、わたしはその人の脇を通り抜けて、自分の部屋に向かう。

ろくな会話なんてない。

だけど、いつものことだから、

「……夕飯が出来たら呼ぶよ」

なんて、しょんぼりした声で言うだけ。

その人は気さくに話しかけてくれるけど、わたしは敬語。

わたしはその人に――宮辺さんに失礼があるといけないから。