愛詩-アイウタ-


 バス賃にここまで悩む自分が情けない。


 光璃は300円を取りだし、整理券と一緒に出そうとする。


 その時、整理券をひょいと取られ、ピアス男に抜かされた。


「ふたり分」


 と言い、500円玉をチャリンと入れる。

 一瞬唖然。知り合いじゃない。


 そのまま降りるピアス男を追い掛ける。


 2、3歩小走りするとすぐ追い付く。


「ちょっと!」


 振り向かない。気付いてるはずなのに。


 光璃は大股で一歩進み、裾を掴んだ。


「ピアス!」



 ぴくっとピアス男は反応し、困ったような顔をして光璃を見た。


「何?」


「バス賃!!」


「…あぁ」


「ありがとう!!」



 それを聞くとまた進んでいくピアス男。


 また大股で走り、今度は目の前に立った。


 お金返したいのにっ!!


「あのさ、お金返したいんだけど、10円玉2枚しかなくて。おつり出せる?」


 と言うとピアス男はぷくくと笑った。


「光璃、ケチなとこ変わんねぇなぁ」