笑顔でなくとも、声だけはかけてくれてもいいのに。



拓都は答えず、行くぞと言って部屋を出た。



私はスタンドの電気を消して、後に続いた。



待ってよ…。



こういうとき、また胸が痛む。



「ねぇ、今度駅伝の大会出るんでしょ?」


「ああ。
よく知ってたな。」



…知ってるよ。



陸上部のことなら、何でも。



意外そうな顔がまた私を傷つける。



「私、応援行こうかな。」


「いいよ。
お前、運動に興味ねーだろ。」



ここでもまた部外者扱い。



クラスの女子に、「応援来てくれんだ?」と笑いかけていたのを見てしまっているから、余計に哀しい。



「でも、拓都出てるから。」


「いいよ。
学校の奴に会ったら気まずいだろ?」



そんな、私を気にするようなこと言って。



拓都は私と知り合いだってバレたら嫌なの?



とんとんと先に階段をおりていく頭を見つめる。



どっかの陸上選手の真似だとか、風の噂で聞いた。



ツンツンと短い髪をたたせたヘアスタイルは、拓都にとても似合っていた。



「あぁ、丁度よかった。
パイが焼き上がったの、食べてて。」



公子さんは嬉しそうに息子に声をかける。



なんでも、こうして私達が来たときくらいしかちゃんと話して食べないそうで。



男の子だからと諦めているらしいが、こうして頻繁に私達を呼ぶのはそういう目的があるんじゃないかと思う。