「雅恵ちゃんは私と一緒にお料理しましょ。」


「ええ、何から?」



どうやら仕上げを手伝うらしい母親を置いて、私は立ち上がった。



「あら?
どこ行くの?」



公子さんは驚いたように私を見た。



「拓都の部屋に。
行ってもいい?」


「ええ、勿論。
あの子、今日は早く帰ってきたから、寝てるみたい。」



起こしていいのかと思いつつ、階段をあがる。



壁に作りつけられた棚には、家族の写真が飾ってあった。



…これも拓都は嫌がっている。



確かに17の男子なら普通の反応だろう。



友達を連れてこれないと嘆いていた。



…まったくの道理である。



白塗りの扉の前で立ち止まり、私はノックしようと手を上げた。



が。



…このまま黙ってはいって驚かせるのいいかも。



悪戯心が芽生え、私はそうっとドアを開けた。



電気はついていなかった。



寝てるんだ…。



暗闇でも私の足は、すいすい動く。



小さいときから来ているから、どこになにがあるのか知り尽くしている。



迷いなくベッドまでたどり着くと、近くにあるスタンドの電気をつけた。



淡い光が拓都を照らし出す。



まったく、無垢な顔しちゃって。



いつもと同じように眉間に皺がよっているけど、雰囲気がやわらかい。



それはそうだ、寝てるんだから。