金曜の夜。



私はお母さんと一緒に歩きで拓都の家に向かった。



私達の家は幸か不幸か近距離で、歩いて10分という距離。



しかし残念ながらクラブの帰りが遅い拓都とはなかなか会うことはなかった。



「いっらっしゃ~い。」



いかにも奥様な拓都の母親に招き入れられ、私は中に入る。



家の中は温かくて、張り詰めた私の頬を緩ませた。



「公ちゃんの手料理、久し振りだわ~。」



お母さんは嬉しそうに玄関に上がる。



「いっぱい食べてよね。」


「もう、嗄雪のぶんまで食べちゃう。」



うふふっと、40歳を超えたオバサンにしては若すぎる笑い声を残し、彼女達は連れだって歩いて行く。



これはいつものことで、私はひとり後に続いた。



「嗄雪、早くいっらっしゃいよ。」



ひょっこりと、お母さんが顔をのぞかせる。



はいはいと頷くと、またさっと顔を引っ込めた。



まったく、はしゃいで。



でもこれもいつものことなので、私は黙って中に入った。



広いリビングは、公ちゃん、もとい公子さん好みにインテリアされている。



手編みのレースで飾られた棚、私の母親が贈ったパッチワークのテーブルクロス。



どれも拓都が吐き気を催すと批評したものだ。



しかし、公子さんは聞かなかったかのように、それらを使い続けている。



拓都も撤去してくれるとは思っていなかったようで、相変わらずこの家はメルヘンだった。



「座っててね~。」



ウェーブのかかった髪を結いあげながら、公子さんはソファを指す。



私はいつもの定位置に腰かけた。