病院内もすっかりクリスマスに染まっている。



見舞いに来ている両親が、サンタの格好をしているのを見かけ、頬が緩む。



好きなものを好きなだけ食べる事の出来ない我が子に、せめて楽しい思い出を作ってやりたいという優しさが温かい。



私もなんか変装でもしてくりゃよかったかな。



……まぁ、いつもよりちょっと女の子らしい格好をしてきたから、いっか。



いつもはなかなかはくことのないスカートにブーツ。



上はおとなしめのセーターで締めてきた。



拓都、なんて言うかな。



ってか、口利くかな。



手土産にもってきたケーキを揺らさないように気をつけ、廊下を進む。
(拓都は別に食べられるだろう。)



コツコツと、ヒールの音が廊下に響く。



通りすがりに、あちこちからクリスマスの歌や話が漏れ聞こえた。



どーせ、拓都はいつも通りだんだろうな。



あの人に、クリスマスも元旦も関係ない。



お義理程度の挨拶はするけど、たとえ元旦であろうと、陸上のことは頭から抜けない。



抜いてくれない。



昔、一緒に初詣に行こうと言ったときも、駅伝をみると言って構ってくれなかった。



だから、こんなイベントには興味を示さないかもしれない。



でもでも、夢を持ってみてもいいじゃない!



もしかしたら暇を持て余してるせいで、気が変わるかもしれない。



そう願う。



私は深呼吸して、部屋に入った。



「こんにちわ~。」



同室のみんなが、少し驚いたように私を見た。



「久し振りじゃん…。」


「うん、ご無沙汰。
拓都、いる?」



そう訊くと、何故か彼は顔を強張らせた。



そして、その理由はすぐわかった。