「その口紅ってさ、落ちにくくていいって評判なんだって。知ってた?」

 旬は得意気な顔をしてそう言った。


「うん。知ってる」

 奈津美は頷いて答えた。


 旬がくれた口紅は、CMでよく見るもので、旬の言うとおり、食事をしたりしても落ちないということをメインに宣伝している。


「もしかして、それで選んだの?」

 奈津美には逆に、旬がそれを知っていたことの方が意外だった。


「うん」

 旬は、更にニッコリと笑って頷き、そっと奈津美の顔に自分の顔を近づける。


「どうして?」

 奈津美が首を傾げ、そう尋ねると、旬の顔がそっと近寄ってきた。


「これでナツといっぱいチューできる」


 悪戯っぽい旬の言葉に、奈津美は目を丸くした。

 そしてすぐ、


「もうっ……」

 と、いつもの口癖を言いながらもはにかんだ。


 二人は目を合わせて笑い合い、そのまま唇を重ねた。




 柏原奈津美の彼氏は、年下・高卒・フリーター。家事は一切できないし、部屋は散らかすのが得意な方だ。

 奈津美がいないと、まともな生活はできないんじゃないか。

 そんなダメ男の旬。


 それでも、奈津美には旬が必要な存在だ。

 何だかんだで、こんなダメ男に依存していたのは奈津美の方かもしれない。




   ☆end☆