数日後――



 奈津美は、遅くはなったが、旬のためのバレンタインのチョコレートケーキを作り直して、旬の家にやってきた。


「………何これ」

 旬の家に踏み込んだ時の奈津美の第一声はそれだった。


 台詞としては、いつもと同じだったのだが、その声は、いつもより力が抜けていた。

 いつもは唖然とした感じなのだが、今日はそれを通り越して愕然としていた。


「あ、ナツ~」

 旬が、玄関で立ち尽くしている奈津美を出迎えた。


「あ、それケーキ?」

 奈津美の持っている紙袋を見て、反応する。


「うん」

 奈津美はとりあえず頷いて旬に紙袋を渡す。


「うわ~。開けていい?」

 旬は上機嫌で紙袋の中のケーキの箱を覗いて言った。


「待って。旬。この部屋の状態は何?」

 奈津美は、少し厳しい声で旬に聞いた。


「何でいつもよりこんなにひどいの?」


 久々に来た旬の部屋の中は、いつもと違った。

 いつもにも増して、散らかり、部屋がゴミや物で埋め尽くされていた。


 久々、といっても、前に来て掃除した時から十日も経たないはずだ。今までにも二週間ほど来てない時はよくあったのだが、その時以上……というより、奈津美が見てきた中で一番酷い。


「えー。これでも掃除しようとして頑張ってたんだって」


「え……」

 旬の言葉を聞き、奈津美は目を丸くする。


「俺だって、少しはナツに見直してほしいからさ…?」

 少し恥ずかしそうに、旬は言った。

「旬……」

 いつもと少し違う旬を、奈津美は驚いた表情で見る。しかしすぐに真顔に戻って、


「何で掃除しようとしてこんなに酷くなるのよ。……もうっ」

 奈津美はパンプスを脱いで部屋に上がった。


「え……ナツ、ケーキは?」


「冷蔵庫に入れといて」


「え~…」


「こんな中で食べれるわけないでしょ! 掃除が先!」


 奈津美に厳しく言われ、旬は残念そうに冷蔵庫へ向かった。