指で目元を擦ると、落ちたマスカラとアイラインで黒くなった。


「メイク、落とさないと……」

 奈津美は小さくそう言って旬の腕の中からそっと抜け出した。


 旬に背を向けて、ティッシュで涙を拭いて、いつも使っているクレンジング用のウェットティッシュで落としていく。


 手鏡で見てみると、思った以上に酷い顔をしている。

 目元のメイクが落ちてパンダのようで、目は充血して兎のようだ。


 これでさっきは泣いていたのだから、もっと酷い顔だっはずだ。


 その顔を可愛いと言った旬は、やっぱり物好きだと思いながら、奈津美はメイクを落とした。


 ぐるきゅるるぅ~~……


 旬の方からキテレツな音が聞こえ、奈津美は振り返った。


 見ると旬は腹を押さえている。


「ハハッ……そう言えば俺、まだ晩飯食べてなかった。気が抜けたらつい鳴っちまった」

 恥ずかしそうに笑いながら、旬は言い訳した。


 思わず奈津美も笑みを浮かべたが、旬が空腹なのは、奈津美が何時間も待たせてしまったせいだと気付いた。


「…旬、何食べたい? 出来るものならすぐ作るから」

 お詫びとしてそのくらいのことはしようと、奈津美は体ごと旬の方に向いた。


「ん~…じゃあ……」

 旬はじっと奈津美を見ると、ニヤッと笑った。


「ナツ食べたいなぁ…」

 ほんの少し甘えを含んで旬が言った。


 その次の瞬間には、奈津美の体が動いていた。


「……なーんて。…え?」

 笑って冗談にしようとした旬の唇に奈津美の指が触れ、言葉を遮る。


「ナ…ナツ?」

 予想外の出来事に、旬は目を白黒させる。

 奈津美も、まさか自分がこんなことをするなんて、思いもしていなかった。