「旬は……だらしなくて、いっつも部屋行くと汚いし、Hなことばっかしてくるし……本当は、あたしの理想とは全く違うけど……」

 さっきのお返しのように、奈津美は、旬に対して思っていたことを告げる。

 それで出てくるのはやっぱり、あまりいいことではない。


「でも……それでも旬だからっ……旬だから好きだよ! 旬じゃなかったら、一緒に居たいって……離れたくないって、思わないからっ……」



 元はと言えば、勢いで付き合い始めた旬……

 何とかなるだろう。付き合っていけば、きっと好きになっていくだろう。初めはそんな気持ちだった。


 でも、いつの間にか、こんなにも旬のことが好きで、旬のことが愛しくて、奈津美にとってなくてはならない、側に居ることが当たり前の存在になっていた。


「よかった……」

 耳元で旬の安心しきった声を聞くと同時に、奈津美は旬に強く抱き締められた。


「よかった……ナツが、俺のこと嫌いじゃなくて……」


 それを聞くと、おさまりかけていた涙が再びこみ上げてきた。


「……っく……旬……」


「えっ……!? 何でそこで泣くの!?」

 またもや慌てた様子の旬だったが、奈津美自身、何で涙が出るのかいまいち分からなかった。

 でも、安心したような、嬉しいような……少なくとも、悲しみからの涙ではなかった。


「ナツ~、泣きやめ~?」

 旬は、そっと抱き締めていた手を離し、両手で奈津美の頬を挟んで撫でる。

 奈津美は顔を上げることが出来ずに、俯いたまま涙を流した。


「ナツ。俺、ナツは笑ってる時の方が好きだよ? だから、笑って?」

 そう言いながら、旬は奈津美の顔を上向きにした。

 旬と目が合う。


「………やっぱ泣いてるとこもめちゃくちゃ可愛い」

 笑顔になって旬は言った。

 言ってることが変わりすぎて、奈津美はおかしくなって吹き出した。


「もうっ……何言ってんの」

 久々の、奈津美の口癖だった。


「あ、やっぱナツはそうじゃないとな」

 旬は奈津美の表情を見て、満足そうに笑った。

 きっと、泣き笑いの変な顔になっていただろうけど、そんなことは気にならなかった。