その次の日も、旬からの着信とメールが何件も入っていた。しかし、奈津美は相変わらず、電話に出ることも、かけ直すことも、メールを開くこともしなかった。



 そして、旬と連絡をとらないまま、その翌日。


 奈津美はもう携帯の電源を切って一日を過ごした。電源を入れていたら、いちいち気にしてしまいそうだから……


 この日の夕食は、前から約束していたカオルとの外食だった。雑誌に載っていた、和食の創作料理の店だ。


 二人はいつも通り、何気ない会話をしていた。


「そう言えば、奈津美」

 笑っていたカオルが、ふと真顔になる。


「彼氏君とちゃんと話したの?」


 奈津美の箸がピタッと止まる。カオルには、あれ以降そのことについて何も言ってない。


「……話してない。ていうか、メールも電話も無視してるし」

 奈津美はカオルの方は見ず、そう言った。誤魔化すように箸を動かし、料理を口に運んだ。


「え……」

 今度はカオルの方の箸が止まった。


「話してないの!? 何で!?」

 カオルは身を乗り出すほどの勢いで聞いてくる。

 奈津美は何も言わず料理を食べる。


「ちょっと、奈津美!」

 カオルの厳しい声を聞き、奈津美は箸を止める。


「……分からないの」

 小さなため息混じりに奈津美は呟いた。


「分からないって……何が?」


「旬に、何を言いたいのか……分からない」

 奈津美の言葉に、カオルは黙って眉をひそめた。


「例えば、三日前のことを謝るにしても……どう謝ればいいのか分からない」


「何で……どういうこと?」


「……色々考えたら、あの時出てきたのは、本音だったのかもって。だって、普通思ってもないことなんて口から出てくるはずないじゃない? だから、自分でも気付かないうちに、旬に対してああ思ってたのかなって……」

 奈津美の口許には、苦笑混じりの笑みが浮かぶ。