やっと唇を離した旬は、奈津美を堪能したことに満足気に笑っていた。

「もう……リップ塗り直さなきゃ」

 熱い口付けと抱擁の後でも必死に冷静を装い、出勤のために切り替えて鏡に向き直った。


「ナツ~」


「きゃっ!」

 旬が昨夜のように後ろから抱きついてきた。


「旬! 離してっ。リップ塗れないでしょ! …やだ、ちょっと! どこ触ってんの!?」

 旬は奈津美の太股や腰周りを撫でるように触っていた。それは昨夜、ベッドの中でされた愛撫と同じようなものだった。


「ダメ! あたし今から仕事なんだから…」


「触るだけ~」

 そう言って胸に手を伸ばした。


「やだっ……あっ」


「ナツのエッチ~。感度いいんだからなぁ」

 反応してしまった奈津美を見て、旬がニヤニヤと笑う。


「もうっ! ふざけないで!」

 奈津美は真っ赤になって口紅を持った手を振り、旬を引き剥がそうとした。


「あ……!」


 勢い良く腕をふった拍子に、奈津美の手から口紅が落ちた。もちろんキャップをつけていない。

 床に着地した口紅は見事に根元からポッキリと折れてしまった。