「ねえ、大丈夫? 本当、休んだ方がいいんじゃない?」

 よっぽど気分が悪いと思ったらしく、カオルが奈津美の背中をさすった。


「…大丈夫。ちょっと、ギリギリまでここにいるから……」

 顔を上げず、奈津美はカオルにそう言った。


「……分かった。じゃあ先に行ってるね」

 奈津美を気遣ってそう言うと、カオルはそっとロッカールームを出て行った。



 一人になって、奈津美は大きなため息をついた。


 一体何をしているんだろう……

 旬に勝手に腹を立てて、追い返したはずなのに、思わず旬のことを考えてしまっている。きっと、癖になっているのだ。


 奈津美は、鞄から携帯を取り出して開いた。不在着信が三件、メールが十件……全部旬からだ。でも、奈津美はかけ直すことも、メールを開くこともしなかった。


 携帯を閉じ、鞄に放り込み、奈津美は顔を上げた。


 鏡を見ると今の自分の顔が映り込む。相変わらず、ひどい顔をしている。

 朝に比べればましになったものの、まだ腫れぼったい目、むくみもとれていない。目の下の隈は、ファンデーションとコンシーラーで必死に隠そうとしたが、今日は化粧のノリが悪いせいで隠し切れてない。


 もう一度ため息をつくと、奈津美はロッカーを閉め、オフィスへ向かった。




「一回彼氏君と話した方がいいんじゃない?」


 昼休み、食堂でカオルに言われた。


 奈津美は、まだ胃の具合が悪くサラダを食べていたが、カオルの言葉によって更に食欲が失せた。


「彼氏君からメールとか来てるんじゃないの?」

 着信やメールのことは言っていないのに、カオルは鋭く言い当てた。奈津美は言葉に詰まる。


「奈津美の気持ちも分からなくはないけど……あたしもつい彼氏に当たる時あるし…そんな場面見たんなら尚更ね……でも、言い過ぎたって思うんなら奈津美も悪いよ。わけも言わずに追い返されて……彼氏君、絶対困惑してるって」


 カオルの言うことは尤もだと、奈津美には分かっている。


 むしろ『奈津美も悪い』ではなく『奈津美が悪い』ということも……