「気持ち悪……」


 翌日、奈津美は胃のムカつきを抱えながらも出勤した。

 ロッカールームで着替えながら、何度も同じように呟いている。


「そりゃそうでしょ。ヤケ食いでケーキをホールで食べたんでしょ?」

 奈津美から昨夜の話を全部聞いたカオルが、呆れたように言った。


「本っ当…朝来てビックリしたわ。別人かと思った」


「どういう意味…?」


「だって顔ヒドイし。顔むくみまくり、目腫れまくり、隅もできまくり。一晩で何があったの?ってぐらい顔違うわよ」

 カオルの言葉に、奈津美は何も返せなかった。


 全部本当のことだ。


 昨夜、旬が帰ってしまって、一人で玄関で泣いた後……奈津美は、悲しいのと寂しいのと悔しいのと……たくさんの感情を『食』にぶつけた。


 二人で食べるはずだった夕食を、二人分全部食べ尽し、旬に渡す予定だったチョコレートケーキも、ホールで丸ごとがっついた。しかも泣きながら…


 そして食べたらそのまま寝てしまい、朝起きた時にはひどかった。

 目が開かないほど腫れてしまい、お岩さん状態。鏡で見てみるともっとひどく、顔もパンパンで、ぐっすりと眠れなかったせいて目の下にはびっしりと隅ができていた。


 カオルの言った通り自分でも本当に別人かと思った。


 しかも食べ過ぎで胃がもたれている。

 こんな顔でこんな体調で、仕事に行きたくない。そう思ったが、そんな理由で休むわけにもいかない。奈津美は、熱いシャワーを浴びて、化粧をし、胃薬を飲んで、何とか出勤したのだ。



「あー…吐きそう」


「大丈夫? ていうか、太るわよ」

 カオルは、嫌なことを言ってくる。でも、現実だ。


 昨夜はそんなこと気にせず、勢いで食べた。夜にあんなに食べて、しかもケーキを食べたら、恐ろしいことになる。


 体重、体脂肪、贅肉、ニキビなどの吹出物が増える……最悪だ。


 旬だったらあれだけ食べても太らないし、肌だって綺麗だ。

 何で旬はいつも平気なの……


 そう思って、はっとする。…無意識に旬のことを考えていた。


 最悪……

 奈津美は深く溜め息をついてうなだれた。