ここでどうして旬のように素直になれないのだろう。


「…帰って」

 奈津美の口からは、冷たい言葉しか出なかった。


「ナツ……」


「帰って。旬の顔…見たくない」

 今、旬に会ったら、また責めてしまいそうで、そんな自分が嫌になって、また責めて…悪循環に陥りそうだったから……


「帰って…」

 奈津美は絞り出すような声になっていた。


 ドアの向こうの旬は、しばらく何も言わなかった。


 そして、そのまま何も言わず、ゆっくりとその場を離れる音が聞こえた。旬の足音が、遠ざかっていく……



 旬の足音が聞こえなくなると、奈津美はその場にへたり込んだ。


「…ふっ…ぅ……」

 奈津美は涙を溢していた。

 泣くのはいつぶりだろうか。奈津美は、嗚咽を漏らしながらただ泣いた。


 自分が堪らなく嫌になった。

 結局は自分中心だ。


 今日は、奈津美が会いたいから、わざわざ旬に来てもらったはずなのに…安心したかっただけなのに…逆に不安になって、旬に当たって……何をしてるんだろう。

 旬に言われた通り、ただ、あの女の子に妬いてしまっただけだ。それだけなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。


 旬に言ったことは、全部が全部、本音ではない。あそこまでひどくは思ってない。

 …なのに、弁解もせずに逃げて、追い掛けて来てくれた旬も、追い返してしまった。


 もう無理なのかもしれない…

 そう思って奈津美は更に泣いた。