「ねぇ、旬。十四日のことだけど……」


「うん、何?」


「…旬がうちに来るなら、泊まりでもいいよ」


 こんなことを奈津美から言うのは、多分初めてで、恥ずかしく感じた。でも、たまには言ってみてもいいだろう。


「え……いいの? 平日だからダメって言ってたのに」

 旬は驚いた口調だった。


 それもそうだろう。元々は旬が泊まりがいいと言っていたのだ。『せっかくのバレンタインなのにー』とごねる旬を『平日だからダメ!』の一点張りで押し伏せたのは奈津美の方だ。


「うん……でもやっぱりバレンタインだから、特別ね。…それに、ケーキ作るの時間かかるし、旬がうちに来るんだったらゆっくりめに作れるし……あと、朝もいつも通りにできるから」

 照れ臭くなって言い訳じみたことを付け足してしまった。しかも自分の都合に合わせたというような、可愛くない言い方だ。


「別に旬が嫌ならいいけど?」

 可愛くない言い方が続く。何でこんな高圧的なのだろう。全くそうできる立場じゃないのに……


「行く! 絶対行く!」

 それでも旬は、予想通りの反応を見せる。


 それに安心して、奈津美は微笑んでいた。