「はぁ……」

 奈津美は思わずため息をついた。


 何だか、無理矢理旬のいい所を探してるみたいだ。勿論、全部本当にいいところなのだが、必ず粗も一緒についてくる。


 考えすぎて、何が何だか分からなくなってきた。不安になってくる。


 自分にとっての旬はなんなのだろうか。旬にとっての自分はなんなのだろうか。


 自分の気持ちに自信がなくなってくる。自分の気持ちが分からない。


 奈津美は旬じゃないとだめなのか……旬は奈津美じゃないとだめなのか……

 もしかしたら、代わりなんていくらでもいるのではないか……

 どこからともなくそんな考えも出てきてしまう。

 そう考えると、とても寂しくなった。




 奈津美は自宅のコーポの階段を重い足取りで上り、三階まで辿り着く。部屋へ向かいながら鍵を出そうと鞄の中を漁った。


 鞄の中に入れた手が、携帯に触れる。

 そういえば、今日は友達と買い物に行くから帰ってきてからこっちから電話する、と旬にメールを送ったのだった。


 よりにもよってこんな時に、電話すると言ってしまった。こんな気分で、旬と電話したら、声に出てしまうような気がする。メールすると送っておけばよかった。と、奈津美は後悔した。



 更に悶々としながら鍵を探り出し、奈津美は自分の部屋のドアを開けた。中に入り、鍵とチェーンをかけてしっかりと戸締まりをしてから中に入る。

 何も考えずとも毎日の習慣で、奈津美は部屋に入るとまずエアコンをつけてからコートを脱ぐ。


 いつもはそれからテレビをつけたり、化粧を落としたりするのだが、今日は鞄から携帯を取り出すと、そのままベッドに寝転んで携帯を開いた。

 操作をし、リダイアルを表示する。基本的にかけるより受ける方が多い奈津美だが、それでも一番上にある番号は旬だ。

 このまま、発信ボタンを押せば、旬に繋がる。それが躊躇われた。


 旬は待っているかもしれない。いつもメールも電話も、よこすのはほとんど旬の方だから……


 そう思ったらするしかない。

 大丈夫。旬の声を聞いたら、きっといつも通りにできる。

 奈津美は意を決して通話ボタンを押し、耳にあてた。