やってしまった……

 行為の後、ベッドの隣で奈津美を抱き締めるようにして寝息をたてている旬を見て、奈津美はため息に似た吐息を漏らした。


 …結局、流されるままに二回目もしてしまった。そのつもりはなかった、と言っても、こういうことは今までに何回もあった。というか、毎回だ。平日にいきなり会うことになって、旬の家に来ると、必ずといっていいほどそのままお泊りコースになってしまう。


 毎度毎度、今日は流されまいと、思っているのだが……手技、口技、寝技が得意な旬には、勝つことができない。


 時計を見ると、午前二時過ぎだった。

 今から帰っても、あまり眠ることはできないだろう。それに……


「ん……」

 旬がもぞりと動いて奈津美の体を抱きしめ直した。起きたわけではなく、そうしたらすぐにまた気持ちよさそうに寝息をたて始める。

 こんなふうにされたら、腕をほどいて勝手に帰れない。


 惚れた弱味というやつなのか、彼氏が年下で、フリーターで金がなくて、だらしなくて家が汚くて、こんな風にワガママに迫られ求められて……こんなダメ男でも、結局は許してしまうのだ。




「…あれ。ナツ、もう起きたの?」

 翌朝、目を覚ました旬が、寝起きのかすれた声で言った。

 奈津美は、着替えて、出勤のために化粧をしていた。


「だってもう七時よ。旬も起きなくていいの?」

 奈津美は鏡に顏を近付け、アイシャドウを塗りながら、旬に言った。


「ん~…今日バイト昼からだし、まだいい。だるいし」

 そう言いながら枕に顏を埋めた。


「…そう」

 奈津美は少し声を低くして言った。


 だるいのは奈津美も同じだ。しかも、その原因は昨夜の旬の『攻め』のせいであるのに…。


 フリーターである旬とは違って、正社員である奈津美は休んだり遅刻するわけにはいかない。

 別に悪気があるわけじゃないのは分かっているし、まさか旬本人には言えないが、こういうことを言われると癇に障る。