とある居酒屋で、奈津美は飲んでいた。

 居酒屋、と言っても勿論、旬のバイト先のではなく、流行の小洒落た居酒屋だ。それに、今日はカオルと一緒だ。


「ごめんねー。付き合わせて」

 酎ハイで乾杯をした後、カオルが言った。


「いいよ。全然。暇だったから。それよりよかったね。早めに決まって」


「うん」

 奈津美の言葉にカオルがにっこりと笑う。


 今日は、カオルの買い物に付き合った。カオルの彼氏に渡すチョコレートを選ぶためだ。もうすぐくる、バレンタインデーのために。


「ていうか、奈津美は買わなくてよかったの? あ、もう用意してるの?」

 唐揚げを箸で摘みながらカオルが尋ねた。


「ううん。旬には作る予定だから」


「へー。手作り。やるわね」

 カオルは感心したように奈津美を見た。


「だって、旬にあんな高級なものあげてもすぐなくなるもん。質より量だから満足しないだろうし」



 奈津美とカオルが今日行ってきたのは、有名な高級ブランドのチョコレート専門店だ。小さな一粒が何百円という、高価なものだ。

 カオルも、一箱六粒なのに五千円という、信じられないほど高額なものを選んだ。


「こんなに高いの買うの?」

 と、奈津美が目を丸くして言うと、


「彼、あんまり甘いもの好きじゃないし、一ヵ月後には倍以上になって返ってくるから、安いもんよ」

 と、カオルは笑った。


 つまり、ホワイトデーのお返しが豪華だから、これぐらいの出費は痛くない。そういうわけだ。

 カオルの彼氏は、年上で国立大卒、一流企業のエリート社員……高学歴、高収入の男だ。ちなみに顔もなかなか男前だ。