「まだ続けてたの?」


「うん。あそこ時給わりといいし。店長も気前いいし。あ、ナツのこと今度連れてこいって言ってたよ。ナツ、全然行ってないんだろ?」


「当たり前でしょ! 恥ずかしくて行けるわけないじゃない!」

 あの居酒屋は、ナツの自宅のすぐ近くなので、わりと頻繁に行っていたのだが、あの日以来、一度も行ってない。


「ていうか、店長、あたしたちのこと知ってるの?」


「うん。だって俺、言ったし」


「もー…言わなくていいのに」

 奈津美は顔を赤くして言った。


「あ。そーだ。今度行ったらさ、また帰りホテル行く?」

 旬はニッと笑って言った。


「もう! 何言ってんの! あたしは行かないからね! ていうか、あの時のことは忘れてってば」


「普通彼女との初めてのエッチのこと忘れられるわけないじゃ~ん? ナツは忘れてるみたいだけどさぁ」


「もう! 旬!」

 街中で普通に変なことを口にしたことと、その内容に対して、奈津美は更に顔を赤くして旬をキッと睨む。


「本当、あん時のナツ可愛かったなぁ」


 旬のその発言に、奈津美は目を丸くした。


「あ、今もめちゃくちゃ可愛いけど。つうか、ナツはいつどこで何してても可愛い」

 そう言って、奈津美に笑顔を向ける。


「どこが?」

 無意識に奈津美は聞いていた。


「具体的に、どこが?」

 旬の感覚はおかしいと思う。旬といる時の自分は、一番可愛くないはずなのに。そもそも、そんな自分と付き合っている時点でおかしいのか……


「え~…。そんなの恥ずかしくて言えないって」

 旬は、照れたように頭を掻いた。


「いいじゃん。何でも! 何がにしろ、俺がナツのこと好きなのは変わんねえもん」

 旬の顔が、少し赤い。奈津美もつられて顔を赤くした。


 多分、こんな自分を好きだという旬は、相当な物好きだと、奈津美は思った。

 そしてそれは、そんな物好きと付き合っている、奈津美も同じだ。