「あ、付き合うんだったらナツミさんってさん付けじゃなくていいか。ナツミ……ナツ。なぁ、ナツって呼んでいい?」

 なのに旬は、完全にいい意味で取って、うきうきと勝手に話を進め、そうやって聞いてくる。


「うん……」

 奈津美は、頷いてしまった。

 だが、この状況は、旬の表情は、奈津美にそれ以外の言葉を発するのを許していなかった。


「ナツ〜」

 早速旬はそう呼んで、奈津美の唇、額、頬などに軽く音をたてて口付けていった。


 それが、不思議と嫌ではなかった。

 元彼が元彼だっただけに、飢えているのかもしれないと思った。


 ……まあ、なんとかなるだろう。

 奈津美は流されながら、そう自分に言い聞かせて、旬と付き合うことにしたのだった。




 この後、やっとまともに名前を聞き、年齢を聞いて自分より四つも下だということに驚いて、

(少し幼い顔立ちだったので年下だろうとは分かったが、身長があってガタイがわりとしっかりしていたので、それも居酒屋でバイトをしていたので二十歳ぐらいだと思っていた)

職業柄も聞いて驚いて、

(その時はまだ卒業式を間近にした高校生だった。しかも、大学に落ちてフリーターが決定していた)

付き合い始めて暫くして初めて行った旬の部屋の汚さ、生活のだらしなさに驚くことになるのだった。