あの時は、おかしかった。

 元彼と別れたことが、ショックだったとか言うよりも、悔しかった。それを旬にぶつけていた。


「だって……一ヵ月ぐらい前から何もしてこなくなったのよ? 家に泊まりに行っても、夜、隣で寝てても『今日は疲れてるから』とか言って相手してくれないのよ? 何かおかしいって思うじゃない。だから昨日会った時、最近冷たくない? ってそれとなく言ったの。そしたらなんて言ったと思う?」


「さあ……」


「『何か、君じゃ何も感じないんだよね。もしかして、不感症?』……はあ!? 何好き勝手言ってんのよ! こっちだってあんまり気持ちよくなかったわよ! でもそれはアンタが下手だからでしょー!」


 酔っていたせいで、普段女友達にも滅多にしない、かなりの下ネタ発言をしてしまった。

 その時のことは、奈津美の記憶にも残っているのだが、その時はよっぽど頭にきていたらしい。理性が止めようともしていなかった。

 後になって思うと恥ずかしい。


「それ言ったの?」

 それまで相づちだけを打っていた旬が、初めて口を挟んできた。


「言ってない」


「言えばよかったのに」


「言われた時はそこまで頭回らなかったのよ! こういうのって後からくるからムカつくー!」

 奈津美は怒りに任せて旬の腕を掴み、思いっきり揺さ振った。


「もうそれだけが心残りなの! 絶対忘れられないわよ、あの男~!」


「お客さん、そろそろ看板なんだけどね。そいつもそろそろ解放してやってくれないか」

 カウンターから店長らしき中年男性が声をかけてきた。


 後から聞いた話だと、旬はその日、バイトを上がる時間がもうとっくに過ぎていたらしい。それを奈津美が引き止めた形になってしまったのだ。