約一年前………


 奈津美はある居酒屋のカウンターで、一人で飲んでいた。一人でビール、焼酎、日本酒のグラスを、少々無茶なペースで空けていた。


「お客さん…ちょっと飲みすぎじゃないですか?」

 空いたグラスを下げながらそうやって奈津美に声をかけたのは、その居酒屋でバイトしていた旬だった。


「何。客に文句つける気!?」

 その時の奈津美は荒んでいて、店員の旬を鋭く睨んだ。


「何よ。一人で飲んで淋しい女って思ったんでしょ」

 そのへんの酔っ払い親父やヤンキーと何ら変わりなく、奈津美は旬にいちゃもんをつけた。


「え…いや、そんなことは……」


「思ったんでしょ! 正直に言いなさいよ!」


「まあ…少しだけ……」

 客に対して気を使っていた旬だったが、根が良くも悪くも素直な性格のため、詰め寄られて頷いてしまった。


「ちょっと座って!」

 奈津美は旬の腕を無理矢理引っ張って隣に座らせた。


「あたしだって好きで一人で飲んでるんじゃないわよ。昨日、男と別れて、しかもこういう時に限って友達皆デートだし……飲まなきゃやってらんないっての!」


「はあ……」


 こうして、閉店までの三時間、奈津美は名前も知らない男に愚痴をきかせてやったのだった。



 これが、二人の出会い……