「 なぜです?

… "あそこ"でも言われてたけど
こんな風に、
朝、自分が学校に現れなくて
風邪をひいたと聞いて一目散に、
料理を作りに来てくれる女子高生

健気で、いい子じゃないですか 」




俺が何も答えないでいると
藤本は再び言葉を続ける




「 …こちらもオニではないのです

だいぶ以前、
五代位前の貴婦人の時でしょうか…

一度無理強いして
男が恋人の女性と、命を絶ってしまった
辛い例がありますから…



嫌なら構わないんです
だけど、
…せめて学校を卒業するまでは
彼女に優しくしてあげて欲しいんです


卒業と一緒に
年上の先生への淡い恋心も一緒に卒業して
いつか美しい想い出に変わる――



申し訳ありませんが、
こちらのそんなシナリオに
お付き合い願いたいんです

その後は僕が、フォローしますから 」






炒め物の激しい音がするキッチンから
ドタドタと足音を立てて
青戸が居間へと入って来る



「 先生!
やっぱり私、
ちょっと重要な物忘れてたから
コンビニ行ってくるね! 」



すると藤本が立ち上がり
玄関前で靴を履こうとする青戸の体に
覆いかぶさる様にして微笑み
柱に手をついた



「 アイスでしょ? 青戸さん 」

「 えっ… なんでわかったの?! 」



藤本は、白い歯をキラリと光らせ
「 当然さ 」と笑い、颯爽とドアを開け、
夕方の寒い空気と入れ代わりで
クシャミをしながら出て行った