一通り話し終えた後、私はコーヒーをゆっくり飲んだ。

江川朔夜は、固まったまま私を見ている。

他人から見たら衝撃的な事かもしれない。

でも、私は今まで当たり前のようにこんな生活を続けてきたのだ。

誰も助けてくれなくて、伸ばした手に気づいてくれる人もいなくて。

それが、普通だった。

「…そろそろ行かないと。最後に一つだけ。あなたの入っている組織、潰れるから、早く抜けた方がいい」

「なん、で…わかる…」

かすれた声は私の涙腺を緩ませるのに十分だった。

それでも、涙も本音も飲み込む。

江川朔夜の幸せが、私の幸せなんだから。

「…そこの組織のボスを仕切ってるのが、私の親。調べたら、組織ごと、警察に差し出すらしい。あ、誰にも言わないでよ?」

カバンを持って席を立つ。

涙ではなく、小さく、笑った。

何年ぶりかに引っ張り出した笑顔は、引きつっていただろう。

それでも。

笑って行きたかったんだ。