今までにこんなことは一度もなくて。

咄嗟に走り出す、なんてありえない。

「はぁ…」

カバンが教室だから、携帯も無い。

今日、連絡があるはずだから、無いと困るのに。

「…戻ろう」

少し落ち着いた私は走ってきた道を引き返すことにした。

真っ赤に染まる空。

何故だろう。

江川朔夜の言葉を聞いたからか、夕焼けを見ることができる。

教室に戻り、カバンを持って、今度こそ学校を後にした。

江川朔夜の靴はなかったから、入れ違いになったんだろう。

校門を出た所で携帯が鳴った。

「…はい。一ノ瀬結愛です」

[一ノ瀬っ!?]

あの人からだと思っていた私は画面に映された表示を確認する。

江川、朔夜。

ディスプレイには確かにそう表示されていた。

「…どうした?」

[今、どこにいる!?]

焦った声が聞こえて、眉を寄せる。

何事?

「今ちょうど、学校を出た所。忘れ物をしたから、戻った」

[…はぁ…焦った…一ノ瀬がいなくなったかと…]

安心したような声に、罪悪感を覚える。