「ただいま」
ドラマの再放送を見ているお母さんに声をかける。
「あら?今日は早いのね」
心なしかお母さんまでも上機嫌。
「寄り道してないからね」
「そう。
あっ!!今ね、陸の彼女が来てんの。それが可愛いの何のって♪」
……無神経。
いや、当たり前のことだろう。
妹に兄の彼女のことを話すのは当たり前のこと。
だけど、今はその言葉がきつい。
「そうなんだぁ」
私はそのまま、着替えに2階へと向かった。
部屋に入ると話し声が聞こえる。
いつも聞こえる音とは違う。
楽しそうな声。
なんで……
なんで、この壁はこんなに薄いんだろう。
冷たい壁に触れる。
こんな声聞きたくないのに……。
あんなに兄を身近に感じることができた壁なのに。
今は辛い。
笑い声が聞こえるのが辛い。
お願い、
私の居場所をとらないで………。


