「お前は歌やんねーの?」
さっきから馴れ馴れしく話しかけてくる拓斗さん。
あ~、なんだよ。まずは家族から丸め込んでいくタイプの人??
この人も計算かよ。
「俺は歌は苦手なんで」
「そうなのか?麻緋、教えてくれたりしなかったのか?」
「俺、音痴なんで、教えてもらおうって気にもなりませんよ。
ただあいつの歌声がすごい好きでついてきただけですから」
「なんかわかるわ。俺も麻緋の歌、すげーと思う。魂100パーセントって感じで歌い上げるから。腹にズドーンってくるんだよな」
俺の好きと一緒にしないでくれ。
って思うけど、なんかこいつ、実はいい奴なのかもしれない。
ビルにつくと、静さんが受け付けで手続きをしてくれた。
「2時間だから30分はチューニングと個人練習な。で、その後はみっちり合わせよう」
移動の間に要点だけ伝えると、部屋に着いてから、各自黙々と準備に入る。
俺なんか初めてのスタジオだからポッカーンと口あけて部屋を見回してんのに。
適当に腰を下ろして全体を見てみると、なかなか様になってるじゃないか。


