「おい!そろそろ歌、聴かせてくれ」
セットされたボーカルのスタンドマイクの前で静さんがコチラに向かって話しかけて来た。
「……あぁー、今やってるからぁ」
明らかにさっきとテンションが違う拓斗くん。
ゆっくりとアンプに繋ぎ始める。
繋ぎ終わると、ギターを提げ、俯いたままボーカルのマイクの傍で立っている私に向かってきた。
目の前にまで近付くと、拓斗くんは俯いた顔を上げ、勢いよく肩に手を置いた。
「おま!お前!ギターがウィンウィンうなっても、いきなりでかい音が出て来ても、平常心で歌に集中しろよ」
「……う、うん」
「曲はこの前歌った奴だ。歌詞は適当でいい。多分、そのほうが伝わるから」
「うん」
「お前は、声がギターと重なるのを感じて、魂込めて歌えばいい。大丈夫か?」
「うん!!」
拓斗くんはそのままドスドスと今度は力強く帰っていった。
前奏が始まる。
すっとスタンドマイクに手をかけると、冷たい。
だけど、わかる。
ドクドクドクドクと自分の中が熱くなってることが。
「ギュイィィィィィーン」
大きな音が部屋全体を揺らす。
心臓がバクバクする。
でも、これは緊張とかじゃなくて、興奮してるから。
喉が。
喉の奥がウズウズしてるから。
歌いたい。
「♪~」


