こんなやましい気持ちがなければただの戯れになるのかもしれないけれど、この気持ちがあるから蒼に触れることもできない。
近いのに遠い。
こんなに近いのに……。
沈黙に沈黙を重ねて、私たちは何十分も黙って帰り道を歩いた。
蒼、何を考えているんだろう。
「ねぇ、蒼?」
「ん~?」
「今日はありがとね、付き合ってくれて」
「あ~……うん。つーか」
右手で頭を軽く掻くと蒼は私のいる方向とは逆の方を向いた。
「……俺、お前のためならなんだってしてやるから」
「え?」
小さくて小さくて聞き取れなかったけど、顔を真っ赤にしている蒼をみると、なんか多分嬉しいこと言ってくれたんだろうなって思う。
蒼は私を傷つけることは言わない。
ずっとずっと。
蒼は優しいから。
だから、なんでも言うことを聞いてくれるし、私を楽しませようとしてくれる。
そんな蒼だからきっと今も私にとって嬉しいことを言ったんだと思うんだ。
あぁ~。もう!だから好きなんだ。
口は悪いけど最終的には私の好きなようにしてくれて。
壁にぶつかれば、飛び越えられる場所を教えてくれる。
寂しい時は隣にいてくれるし、迷った時は手を差し伸べてくれる。
だから、蒼が大好きなんだ。
あんなに嫌いだったのに、大嫌いだったのに。
私の後ろばっかり追いかけてきて、鬱陶しくて仕方なかったのに。
なのに、いつからかそれが反対になって、気づけば、私が蒼に守ってもらって蒼の背中をみているんだ。


