自分の入れた曲が流れ出す。
マイクを手に持つと、『そういえばマイク持って歌うのって初めてだな』なんて今、どうでもいいことが頭の中を通り過ぎた。
家で流すカラオケバージョンと同じ。
だけど、マイクの重みが、歌詞が映し出される画面が、なんだか本格的に歌える場所で、ドキドキもするんだけど、ワクワクする。
「♪〜」
マイクで自分の声がいつもと違う気がする。
座って歌うのもなんだか変。
すっと立ち上がって、いつものようにリズムを取る。
『あっ、歌うところ、歌詞に色づくんだ』
音がコンポで聴くよりも大きい。
気持ちいい。
歌手になったみたい。
心を込めて、気持ちを込めて、届け。
曲が終わってソファーに座ってから気づいた。
そういえば拓斗くんいたんだった。


