「はぁ〜」
女の人は乱れたスーツを直し、コチラに振り向く。
その表情はさっきとは全く違って、柔らかな笑顔を向けてくれた。
「あの!!ありがとうございました!!!」
「いいの、あなたのおかげで今日の疲れが癒されたんだもん。また聴かせてね」
女の人は地面に置いたカバンを拾い上げると底をはたき土を叩き落として帰っていった。
……蒼っ!!
私は急いで蒼の元へと駆けて行った。
蒼は上半身を起こして電話ボックスにもたれていた。
「大丈夫?!」
「いって……俺、めちゃくちゃかっこ悪ぃー」
蒼は笑ったけど、その笑顔は殴られていたからめちゃくちゃだった。
「ありがとう。蒼、ありがとうね」
安心したからか涙が溢れてきた。
あったかいあったかい涙が頬を伝うのを感じる。
と同時に蒼の優しい眼差しと目が合い、親指で涙を拭われた。
「麻緋……守ってやれなくてごめん」
「ううん、いいの。蒼いいんだよ」
私こそゴメン。
腫れた左頬にそっと手を当てた。
「ってぇって!!」
ビクっと肩を震わす。
「あ……ごめん」
「冗談だって」
痛々しい傷に似合わない笑顔。
私がここで歌わなきゃ、蒼に迷惑かけることなかったのに。
私がストリートするなんて言わなきゃ蒼は殴られることなかったのに。
ゴメンね。
ごめん。
「また歌ってよ」
蒼の大きな手の平が頭の上に落ちてきた。
「……うん」
ごめんね。


