汚レ唄




落ち着け、落ち着いて。

何度目かの深呼吸。



覚悟を決めろ!!





瞳を閉じた。



夏なのにひんやりとした風。

今の私にはちょうどいい。





トクントクントクン……
いいリズム。




自分の心臓の音でリズムをとる。

再び目を開け前を見る。




もう人はあまりいない。

車を待つ人が何人かいるだけ。




だけどその人たちに聴こえますように。


頑張って練習したギターの前奏。




少し間違えたけど大丈夫。


誰も聴いてないんだから。




ギターの音だけがやけに響く。


そろそろ歌が入る。

だけど、喉になにかひっかかる気がしていつものように歌える自信がなかった。



緊張してるから?

どうしよう。


こんなところで辞めるわけにはいかないのに。


テンパリはじめた時、視界の端に見慣れた人を捕らえた。



そいつは隠れてるつもりなんだろうけど、明らかに見えてる。



ばか。



家にいろって言ったのに。



蒼の姿をみた瞬間力が抜けた。




抜けたときに気付いた。

私、こんなに肩に力はいってたんだって。


リラックスすると、喉に感じた違和感だって感じなくなった。



伸びた声が出る。

でた瞬間、駅にいる人たちがコチラを見た気がした。



だけどすぐにこれまでしていた作業に戻る。


私なんて空気のように扱われる。


だけど気にしない。



そんなの最初からわかっていたことだもん。







2曲目は明るいポップな曲。


本当は2人組みのデュオが歌っている。


ハモれないのは残念だけど元気のいい曲で大好きな曲だった。


自然と笑みがこぼれる。

楽しい。

やっぱり歌うのは楽しい。