汚レ唄





夜。


夕食後、みんながバラエティ番組を見ている隙に家を抜け出した。



歌う曲は決めている。


アコースティックギターがよく合うバラード、ポップな曲の6曲だ。


どれも流行の曲でオリジナルは1曲も入ってない。


というか、作ってない。






黒のギターケースを肩からぶら下げて電車に乗り込む。


少し人の目線が痛い。



ギターケースってなんか目立つから、色んな人に見られる。



1駅の我慢。

そう、1駅乗り切ったら今度は人前で歌うんだから。




ドキドキしてきた。

緊張する。


誰も聞いてくれなかったらどうしよう。



少しでも足を止めてくれたらいいんだけどな。





1人はかなり勇気がいる。


何をどうしたらいいのかわからない。


歌うのに許可とかいるのだろうか?

どうなんだろう。






誰かいてくれたら、すごく心強いのに。


……蒼がいてくれたらなぁ。

って、また頼ってるし。





コレは自分で決めたことなんだから。

そう、だから自分で何とかしなきゃ。





電車を降り、灯りの少ないロータリーで足を止めた。

何処で歌おう?

ぐるっと見回してみて人の邪魔にならないところを探してみる。


と、3台ほど並んだ電話ボックスの前が明るく灯されていて惹かれた。





今夜は電話ボックスの灯りがスポットライトだ。

電話ボックスの数歩前にギターケースを置いた。


その動作を興味ありげに見ていく人たち。


だけど立ち止まることはなく。
風のようにさらりと流れていく人の流れ。






ギターを肩から提げて深呼吸を何度か繰り返す。

右手で弦を弾く。

「ビィィィーン」

音がやけに響いていく。




また違う弦を弾く。

また響き渡る。



緊張する。

チューニングを済ませ、高鳴る鼓動をむりやり抑える。