数日後、私は前から考えていたことを実行しようとした。
「ストリートミュージシャン?!」
「しー!!!!!!!」
慌てて蒼の口を手の平で覆うと自分の口元に人差し指をあてて静かにするように制した。
「…………」
蒼は黙って首を上下に振る。
それを確認してから蒼の口を隠していた手を外した。
「……で、外で歌うの?」
小声で真っ直ぐコチラを捉える瞳。
吸い込まれそうになる。
「前から考えてたんだ。ギターが人並みに聴けるようになったらしてみようかなって」
「にしては急じゃね?」
「コンサートに影響されたってだけだよ」
そう。今まではギターが弾けるようになったら……
ギターが上手くなったら……
自分で作詞作曲してから……
って勇気がでなくて先延ばしにしてしまってたことだけど、本当に本当はしたかったことだった。
だけど、この前、蒼の前で歌ってみてわかった。
歌ってる時の相手の反応……
それが変に緊張してピリッとしたスパイスが効いていて一人で歌うよりも楽しいということだった。
人前で歌う事が快感になっていた。
「ふ〜ん。でも、どこで歌うんだよ」
「とりあえず1駅先の駅前で歌ってみようかなって思ってるんだけど」
そう言うと蒼は眉間にシワを寄せた。
「あそこは柄悪い奴多くなかったっけ?」
そうなのだ。
夜になるとチャラチャラしたような人たちが駅前をうろつく。
だけど、私の最寄り駅は人通りも少ない。
多くの人に歌を聴いてほしいって思ったら、1駅向うの駅まで行くしかないのだ。


