来週の水曜日。

約束は取り付けた。



チケットを手にずっと笑っている麻緋の顔を見て満足した俺は自分の部屋に戻った。



見慣れた風景を目の前にすると、ホッとしたのかドキドキと今更ながら緊張してきた。



キョウダイってことは十分に承知してるけれど、まさか、これってデートになるんじゃ。




ドキドキドキドキ。


麻緋のあの笑顔。


ドキドキドキドキ。



見守っていくと決めたはずなのに、笑顔を見た瞬間胸の奥底が熱くなった。


まるでこの気持ちを見過ごすなと問いかけるように。

ベッドに横になり、顔を枕にうずめた。



何、あの子。

めちゃくちゃ可愛いんですけど。


あんなに喜んでさ。


本当、可愛いんだけど。



息をスーハーと吸って吐いてを繰り返していると隣の部屋から歌声が聴こえてきた。


なんだかとってもぎこちないギターと歌。


ちぐはぐで物凄く違和感を感じた。



「麻緋?」

こんなの麻緋の歌じゃない。

こんな心ここにあらずな歌い方、麻緋じゃない。


ギターが疎かになることはいつでもあった。


だけど歌はいつも心を込めて歌っていたのに。




どうしたんだろ。







……ん?


心ここにあらず?




まさか??


麻緋ったら、コンサートに行けるからって興奮してる?



そういうこと??


とか考えてるとすぐにギターの音は鳴り止み、今度はCDの音楽が聴こえてきた。



聴こえてきたかと思うと、今度は麻緋の全力の声。






やばい。


恥も何も考えずに、歌が歌いたいという気持ちだけで歌う麻緋の歌声は、やばい。



自分の表現力のなさに笑えるけど、本当に凄い。



ググっと心臓を鷲掴みされて放してくれない。


麻緋の歌声は聴く人を虜にしてしまう力を持っているんじゃないだろうか。



聴いたらもう、麻緋の声がなければ生きて行けない心にされてしまうんだ。



そんな魅力を麻緋は持っているんだ。