「自分が逃げてちゃ、見えるものも見えないんだよ。
真っ直ぐ人と向き合ったらさ、良いところが見つかるもんだよ」
自分に言い聞かせるような口調だと思った。
地面ばかり見ていると、彼女の足元が振り返ったことを教える。それを見ると反射的に彼女の顔を見上げていた。
改めてみる彼女の笑顔はお日様のような明るい笑顔で僕を照らしてくれていた。
「じゃ、私、行かなくちゃ」
彼女は僕の手を優しく握るとメガネを渡して走っていく。
1人残された僕の手にはまだ彼女のぬくもりが残っていて、なんだか胸が無性にドキドキして、彼女がいたその場所をじっと見ていた。
ザーザー…ザーザーと雨の音が心地よくて、頭痛なんてもうすっかり忘れていた。
その日、僕は彼女の言うとおり、綺麗な景色を見てみようと思った。
彼女の言葉をなぜか信じられたのだ。
メガネをカバンに入れ、駅から学校へと歩く。
彼女の言う綺麗な景色を逃さないようにと周りを気にしながら歩いた。
学校を帰るころには雨は止み、雲と雲の隙間から光が差し込んでいた。


