汚レ唄



「コンコン」

突然部屋をノックする音が聞こえ出した。



「……はい」

のそのそと起き上がり、ドアの方を見た。



よく周りを見てみると、部屋の電気がついていなくて、真っ暗だ。


「蒼?電、話……って暗っ!!」


電気のついた廊下から麻緋が顔を覗かせる。


廊下の明かりが部屋を照らしていく。





「電気くらいつけなよ」

パチッと電気をつけられて、一瞬だけ、目がそれを拒絶する。



明るくなった部屋を……というより、俺を見た麻緋が、怒鳴り声に近い声を出した。





「蒼っ!!あんた!!
泥だらけのままベッドに!!!」


サッカー部で汚された体操着のまま、ベッドに横になったので、ベッドの上が悲惨なことになっている。





「お母さ〜ん!!!!
蒼がぁ!!大変だぁあああああああああああ!!!!」



透き通るような声が家中に響き渡る。


お母さんに怒られるのは麻緋だったはずなのに、いつしか怒られる役は俺へと変わっていた。




「蒼!!何したの!?」

「ベッド泥だらけぇ〜!!!!!」


「はぁ?!
……蒼!!!!!!」


「なんでもねぇって!!」





1階と2階で大声の会話が繰り返される。

お客さんがいる時は静かにしろってよく言われるのに、こういう時だけおかまいなしだ。



「そんなことより蒼、電話。
中峰?さんって女の子から」

「中峰??」


中峰ってあの中峰??

そういえば、今日、中峰に告白されたんだっけ。


栗原先輩のこととかあってすっかり忘れてたけど。


というか、忘れるくらいだから、中峰のことは好きではないんだと思う。


ちょっとトキめいちゃったけど。





ちょうどいい。

断ろう。



そう思って麻緋の細い手から電話の子機を受け取った。