部活を終え、家に帰り、麻緋の部屋の前を通った。
すると、ぎゅうっと胸を締め付けるほど繊細で、力強い歌声が聴こえてきた。
ただ、麻緋の歌を聴いただけなのに。
それだけなのに、なんでだろう。
ぎゅうっと締め付けられる胸が痛くて痛くて涙がこみ上げてきた。
「……誰が泣くかよ」
小さく小さく呟いて、涙を堪えるように上を見上げて、目を右手で覆った。
歌声がよく聴こえるように麻緋の部屋のドアにもたれかかり、聴こえ続ける歌声に耳を傾けた。
止むことなく流れる麻緋の声は、ずっとずっと聴いてたくて、苦しいけど聴いていたい。
矛盾しているかもしれないけれど、ずっと聴いていたかった。
「……好きだ」
誰にも聞こえないくらい小さく呟いたこの声はきっと一生届くことのないもの。
だけど、声に出したい。
麻緋が好きだ。
好きだ。
好きだ。
大好きだ。
どうしようもないくらい好きで、どうしようもないくらい愛おしい。
怒っても好きだし、
笑ってるともっと好きだ。
幸せにしたいって思うし、
笑顔にしたいとも思うし、
その笑顔を守りたいとも思う。
そんな風に思ったのは麻緋が初めてだったし、麻緋以外では思わなかった。


