「……麻緋サンが音楽を辞める?」
先輩は、少し俯き加減で焦点の定まらない瞳でコチラを見る。
「……麻緋は、今音楽にハマってるんです」
「音楽に?」
「あんたの影響ですよ。
卒業式の次の日かな?
麻緋は、あんたのピアノを何回も何回も繰り返しで聴いて、あんたの音楽に歌詞をつけて何回も何回も歌を歌ってるんです」
「歌詞?」
「春にはギターを買って、あんたに追いつこうと必死に音楽に関わっているんです。
だから……」
だから…………
気付けば、俺は先輩の前で膝をついて、頭を下げていた。
「すいません。先輩!!
俺、麻緋に歌っててもらいたいんです。
麻緋の歌を聴いていたいんです。
だから、麻緋とは会わないでください。
お願いします」
無茶苦茶なお願いだってわかってる。
麻緋の歌を聴きたいから会うな。なんて……
おかしいのはわかってるんだ。


