「どうしたんだよ。こんなところまで連れてきて……
俺、顧問に挨拶したいんだけど?」


先輩は困ったように微笑みながら俺を真っ直ぐ見る。


困った表情なのに、爽やか。

八重歯が恐ろしいくらい似合ってて、男の俺が見ても、栗原先輩は爽やか100点だ。



「先……輩は、どこの高校へ行くつもりなんですか?」

「なんだよ。連れ出しといて、そんな事聞きたかったのかよ」



先輩はオレンジ色の夕日を背に浴びながら笑った。


だけど、先輩の目指す高校は麻緋の通ってる高校で……

やっぱりなと納得するけど、心の奥底でふざけんなよと思ってもみたり。



複雑。





「……先輩。
できれば、姉とはもう会わないでください」



なんて勝手なことを言ってるんだって思うかもしれないけれど、でも麻緋とはもう会ってほしくはないんだ。


俯いたまま先輩の顔が見れずにいた。


「姉って……?」

先輩の声が静かに俺の中に透き通って聞こえてくる。


「市村です。市村麻緋」

麻緋の名前を出した瞬間、先輩はどんな顔をしたのか、俺には眩しくて見れなかった。


だけど、静かに静かに、先輩は頭の中を整理するように、俺の名前と麻緋の名前を交互に繰り返していた。


「市村蒼……市村麻緋……
麻緋さんの弟?」



「……そうですよ。
麻緋は俺の姉です」





姉なんて言葉、本当は好きじゃない。


血のつながりなんて自分から発表したくないし、

だけど、姉といわないと、先輩は引いてくれないと思ったから、だから俺は卑怯かもしれないけれど、弟という肩書きを先輩に叩きつけたんだ。


弟という最終兵器を。




先輩は、やっぱり爽やかに笑って、八重歯を覗かせて俺を覗き込んだ。




「そういわれれば似てるかも♪」