「よぉ♪」
「……あ」
突然かけられた声をたどると、そこにいたのは少し前まで、このサッカー部にいた先輩で、
……とても八重歯の似合うサラサラ髪の先輩だった。
なんで、
なんで……
「なんで栗原先輩が……」
俺の小さな呟きを聞き逃さなかった先輩はニッコリと微笑んで答えた。
「夏休みになったから、高校見学がてら、帰ってきたんだよ」
夏休み……。
高校見学……。
やばい。
やばい、やばいやばい。
もし、今、麻緋と栗原先輩が会えば??
麻緋はどうなる?
できれば、会わずに帰って欲しい。
「……いつまでこっちに?」
俺の声は自分でもビックリするくらい低かった。
だけど先輩はさほど気にすることなくニコッと笑って
「1週間くらいかな」
と言った。
1週間……。
もしかすると本当にもしかするかもしれない。
「あの……先輩、ちょっといいですか?」
考えるより行動。
今の俺は、まさにその言葉がぴったりだった。
連れ出した場所は人気の無い校舎裏だった。
ちょうど、グラウンドと校舎の間に隙間があり、そこに先輩を連れてきた。
ここは、めったに人が通らない。


