「ねぇ?あなた、もったいないよ」

「へ?」


彼女は僕の返事も聞かずに続けて口を開いた。



「こんな曇ったレンズじゃ、綺麗なものが見れないでしょ?」

「……綺麗なもの?」

「うん。今日は雨だけどさ、雨が上がったら虹が出るんだよ?見たことある?」

「……」

「晴れた日の朝だとね?朝顔の花びらに朝露がキラキラ輝くの。
見たことある?」

「……」

「あなたは、メガネで自分を守っているのかも知れないけれど、それって、色んな景色を見逃してるんだよね。もったいないよ」

「……もったいない?」

「そうだよ。もったいないよ。自分が注意してみれば綺麗な景色はたくさんあるんだよ?でも、このメガネをかけてたら見えないでしょ」



そう言うと彼女はガラスの方へと歩き出した。


「例えばね?人付き合いも同じなんだよね」



彼女について行き、彼女の可愛らしい声に静かに耳を傾ける。


ふわふわふわふわ……なんだか宙に浮いているようなそんな声。