初めて……その曲を聴いた気がする。
誰の曲?麻緋の?それともマイナーシンガー?
でも、1度聞いたら忘れない、そんな曲だった。
「だれの曲だろうね」
「わかんねーから聞いてんのに」
「私もわかんない」
「じゃあ、麻緋が?」
「んなわけないじゃん」
月の光を浴びて、妖艶に微笑む麻緋の横顔を見て、全身に鳥肌がたった。
こんな麻緋の顔、はじめてみた。
なんだか距離を感じてしまうような、同じエリアにいたはずの麻緋が……。
なんだか、俺だけを残して大人に……、女性になっていくような気がして変な寂しさが残る。
そのくらい、今の麻緋の顔は大人びていたんだ。
誰が、この顔をさせるんだ。
誰が……誰が、麻緋をこうしたんだろう。
「……」
俺が黙ると、また麻緋は有名だかよくわからない曲を口ずさみだした。
よっぽど、この曲が好きなんだろう。
そんで、俺も、この曲が好きかも知れない。
麻緋の声がなんだか心地よくて、ゆったりした、この空気が気持ちよかった。
「……すっげーいい曲」
この時間がずっと続けばいいのに。


