まだ食事をしているお兄ちゃんの後ろを通りすぎる。
大きくて広い背中……。
少し猫背で、その背中を見るといつも抱きつきたくなる感情に襲われる。
……でも、まさかそんなことはできないけど。
だけど、もし……もしも手を伸ばしたら……そんなのダメに決まってるのに。
お兄ちゃんの近くにいたらいつも自分と葛藤だ。
非常識な自分と常識的な自分との葛藤。
いつも勝つのは常識的な自分だけどさ。
「とか何とか言って実は彼氏に電話だったりして」
急に後ろを振り向いて、ニヤっと意地悪な笑顔。
「んなわけないじゃん!本当に宿題だから!!」
持ってた食器を思わず落としそうになった。
好きな人にこんなこと言われるのがこんなに痛いものなんて、初めて知ったよ。
「へぇ~?彼氏できたの?」
お母さんまでもが楽しそうにテーブルに肘をついて尋ねてくる。
普段、この家族はテレビしか見てなくて、会話なんてテレビ関係のことばかりで、人のことには興味ないのに、こういう時だけは興味をもつんだから。
「だから、彼氏なんてできてないから。友達だって」
「お前女子校なのに、男友達いんの?」
「友達の彼氏の友達!!」
乱暴に言い捨てると私は食器を流しへ運び、リビングに置いたカバンを持って2階へと上った。
胸が痛い。
なんでこんなに痛むんだろう。


